平成17年(ワ)第3018号
売買代金返還請求事件
準備書面(原告第一)
原告 X
被告 東急不動産株式会社
平成18年6月21日
東京地方裁判所民事部第七部いA係 御中
記
目次
(1)原告の本訴請求は、消費者契約法4条2項の不利益事実不告知を理由として、本件土地・建物についての売買契約(訴状2頁)の取消の意思表示を行い、それに基き、被告に対し、原告の同土地・建物の引渡しと引き換えに、売買代金2870000円およびそれに対する売買契約の翌日である平成15年7月1日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を請求するものである。
消費者契約法4条2項は「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない」と規定する。
この不利益事実の不告知の制度は、事業者と消費者との間に大きな情報の格差があることを前提に、両者間に公正な取引ルールを築くために、事業者が「不適切な情報提供行為」をした場合の一類型として、消費者に、契約の取消権を与え、「消費者の利益の擁護」を図る等を目的とする(消費者契約法1条)ものである。
その要件は、事業者が、@「当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ」、A「当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったこと」、B消費者の当該不利益事実が存在しないとの誤認と当該消費者契約の申込み等の意思表示、C前記@、AとBとの因果関係である。
本件での問題は、後述するように@、Aの要件の該当性であるが、内閣府国民生活局消費者企画課編『逐条解説消費者契約法[補訂版]』(商事法務‘04.9)は、上記@、Aについて<不利益事実の不告知事例とその考え方>として、[事例4−19]で、
(例えば、隣接地が空き地であって)「眺望・日当たり良好」という業者の説明を信じて中古マンションの2階の一室を買った。しかし半年後には隣接地に建物ができて眺望・日照がほとんど遮られるようになった。業者は隣接地に建設計画があると知っていたにもかかわらずそのことの説明はなかった。
[考え方]
消費者の利益となる旨((例えば、隣接地が空き地であって)眺望・日当たり良好)を告げ、不利益となる事実(隣接地に建物ができて眺望・日照が遮られるようになること)を故意に告げていないので、第4条2項の要件に該当し、取消しが認められる。
としている。
(2)原告の主張する不利益事実は、「アルス」の北側の隣接地(原告が購入取得したのはアルス301号室で、まさしく同隣接地に直面している)に所在した建物[所在・江東区東陽一丁目、種類・作業所居宅、構造・木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建、床面積・1階33.66平方メートル、2階15.83平方メートル。昭和53年6月15日新築。甲51の3。その形状の写真は、甲43の1〜4、乙10]を、「アルス」が完成したらすぐ3階建の作業所・居宅に建替えるという建設(建替え)計画の存在であり、被告は、そのことを充分に承知していたにもかかわらず、故意に売買契約の申込者である原告に告知しなかったというのが原告の主張である。
被告は、@先ず、本件アルス301号室の原告に対する販売担当者中田(注:東急リバブル・中田愛子)が「眺望の良さを強調」したこと、平成15年6月時点で現存した「北側建物」について、「隣地所有者の物置」と説意したことは否認(「作業所兼物置と説明していたはず」という)、また眺望なども当時本件建物から見える景色(遊歩道の緑)を説明しただけであるとし、「広告パンフレット」の記載は、「この開放感を生かし、住戸を角側に配置し、全戸角住戸を実現。他(ママ)方向からの通風・採光に配慮した、2面バルコニーやワイドスパンタイプも多数採用しています。」との客観的な記述であって、「2面採光で心地良い空間を演出します。」との記載もないし、通風・採光について特段良さを謳ってはいないと答弁し、A同中田、訴外東急リバブルの社員宮崎(注:宮崎英隆)が、原告に対し、「本件北側建物の建築について説明していないこと」は認め、B「本件北側建物も建築着工時期について知らなかった」し、「況や本件建物の採光・日照が喪失することなど承知していない」のであり、被告が原告に対して、「不利益となる事実を故意に告げなかった」との主張は争う、C被告が原告に対して、本件契約に際し、本件北側建物の建築工事に関して具体的な内容を告知していないことは認める、D被告は原告に対し、本件建物にかかる「日照・眺望・通風・景観等の住環境に関する重要事項」に関して「利益」を告げた事実はない、E「被告の主張等」として、被告は、原告に対して、本件契約締結時において、本件建物の北側隣地の建築計画(本件北側建物)について調査し、重要事項として誤解を与えることなく、しかも正確な情報を「重要事項説明書」(甲5の2−23頁「(6)周辺環境」)に記載して告知した、その内容に尽きるというのが被告の判断であったとする。
このE(「被告の主張等」)については、アルスの敷地の前所有者訴外康和地所の「本件マンションに関する担当者」の井田真介(注:その後、康和地所を退職し、アソシアコーポレーション株式会社取締役となる)は、隣地所有者と平成14年8月前後から同所有の敷地に関して、共同開発などを含めて接触を持っていたが、
「その中で、訴外隣地所有者は、本件マンションとは別に単独で開発すること、本件マンション竣工後地盤の様子を見てから建築すること、建築内容は3階建で作業所兼居宅であること、建築(建替え)は間違いなくするがその資金調達はまだこれからであること、特に融資を受けていた永代信用金庫がダメ(倒産)になったことから、新たな融資先を捜していること、紹介して欲しいこと、建築(建替え)工事をすることは入居者に伝えておいて欲しいなどのことを説明していた。また、訴外康和地所は、訴外隣地所有者に対して、敷地境界をフェンスではなくて、ブロックまたはコンクリートにすること、本件マンションの北側の2階、3階の開口部を片ガラスにすることで検討することを説明していた。
被告は、訴外隣地所有者と平成14年11月7日頃面談し、訴外康和地所から事業引継ぎの挨拶をし、同康和地所との折衝内容も了解していることを説明して、重要事項の説明のため本件北側建物建築(建替え)工事について、工事図面を求めたところ、同氏から、まだ図面はないことのほか、融資をしてくれる金融機関がまだ見つかっていないことなどの話を聞かされた」
と経緯を述べ、「被告は、これを受けて、種々検討したが結局のところ『本件建物の隣接地』(甲5の2参照)の利用計画について、建築(建替え)計画があるものの、その具体的な着工時期、建築内容など未確定であったため、結局のところ購入者に対する情報として『重要事項説明書』(甲5の2)記載の内容に留めざるに得なかった。・・・・・・被告は、本件において、本件北側建物計画について建築時期、建築内容等具体的な事実が決まっていない以上『重要事項説明書』(甲5の2)記載内容で十分と思慮している」とする(被告の平成17年4月21日付準備書面1〜3枚目)。
また、被告は、「因みに」として、「本件の争点と関連するが、被告は、消費者契約法所定の事業者であるが、同法が被告に一般的に『不利益事実告知義務』を負わせているわけではあるまい」ともいう(同準備書面2枚目)。
被告の主張は、請求原因との関係、つまり消費者契約法4条2項の要件事実との関係で、必ずしも明らかではないが、アルスの北側隣接地の建築(建替え)計画については、訴外康和地所(担当井田真介)と訴外隣地所有者との平成14年8月前後からの折衝内容(@本件マンション「アルス」竣工後地盤の様子を見てから建築すること、A建築内容は3階建で作業所兼居宅であること、B建築(建替え)は間違いなくするがその資金調達はまだこれからであること、C建築(建替え)工事をすることは入居者に伝えておいて欲しいこと等)を、被告は「了解」していたことを認めながらも、その具体的な着工時期、建築内容などが未確定であったため、結局のところ、購入者に対する情報としては、「重要事項説明書」(甲5の2)記載の内容に「留めざるに(を)得なかった」、その「記載内容で十分」と結論するところから見ると、消費者契約法4条2項の当該消費者(原告)に対して告知すべき不利益事実に該当しない、すなわち告知すべき不利益事実については否認ないし争うという趣旨であろうかと考えられる。
また、被告は、同条項の当該消費者(原告)に対する利益事実の告知も争っている(前記2のD)ので、本件の争点は、@利益事実の告知の存否およびA告知すべき不利益事実の該当性の二点ということになる(被告は、北側隣接地の建築について、原告に対して説明していないこと、具体的な内容を告知していないことは認めている。前記2のA、C)。
アルス(本件マンション)の販売を担当した中田愛子(同マンションの「売主」被告に、その販売を委託された「販売代理」東急リバブル(株)の従業員)が、「当該消費者」である原告に対し、同マンションの販売の勧誘をするに際し、通風・採光(「二方向からの通風・採光」、「二面採光」)、眺望・景観の良好さ(「緑道に隣接するため眺望・採光が良好」、閑静)をセールスポイントとして強調したことは、証拠上も疑いないところである(原告本人調書4〜5頁、甲14−18〜21頁、甲6、甲11、甲15−3枚目、甲42−26頁、甲48−19〜20頁、甲47−2〜4頁)。
被告は、原告の主張に対し、原告が購入した301号室(D type)については、「原告主張のような環境、眺望の良好さを全く謳っていない(甲7の2.乙1参照)」と反論する(被告の平成17年7月8日付準備書面2頁)が、原告が平成16年6月22日(日)に東急リバブルの事務所(東急門前仲町マンションギャラリー)で中田愛子から手交された図面集(甲15)の3枚目には、「豊富な緑にたたえられた洲崎川緑道公園が落ち着きある環境を与えてくれます」(代理人注、「洲崎川緑道公園」は大きな文字使用)、「独立性の高い立地を活かした全戸に開放感ある角住戸を実現。さらに風通しや陽射しに配慮した2面採光で、心地よい空間を演出します」(代理人注、「角住戸」、「2面採光」は大きな文字使用)等と明記されており、これがDtypeについてもセールスポイントとされたことは明らかである。中田愛子は、この図面集(甲15)やパンフレット(甲6)などを見ながら原告に説明し、契約を勧誘したのである(原告本人調書4頁。参照、甲47―2〜3頁)。
また、被告は、前掲『逐条解説消費者契約法』(67頁)を引いて、「甲6、甲11の広告物、宣伝物、パンフレットの類の交付は、前同法4条2項所定の『勧誘をするに際し』に該当しない(これは立法者の解釈である)」とするが、被告指摘の記載は、「特定の者に向けた勧誘方法は『勧誘』に含まれるが、不特定多数向けのもの等客観的にみて特定の消費者に働きかけ、個別の契約締結の意思の形成に直接に影響を与えているとは考えられない場合」の例示であり、被告の理解には疑問がある。少なくとも、販売担当者が当該消費者に該当パンフレットを示しながら説明する場合には、『勧誘』に該るというべきである(参照、日弁連消費者問題対策委員会編『コンメンタール消費者契約法』商事法務54〜55頁)。
(1)消費者契約法4条2項の「当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実」(以下、「不利益事実」という)とは、消費者契約を締結する前の状態と後の状態とを比較して、「当該消費者」(=個別具体的な消費者)に不利益(必ずしも財産上の不利益に限らない)を生じさせる恐れがある事実をいう。本項が個別の勧誘場面について適用される規範である以上、ここでは「一般平均的な消費者の不利益」ではなく「当該消費者(=個別具体的な消費者)の不利益」を問題としている。前掲[事例4−19]は、その一例である(前掲『逐条解説消費者契約法』78〜80頁)。
また、前掲『コンメンタール消費者契約法』は、「不利益事実」の「意義」について、「本項は、事業者が消費者に有利な事実を告げた場合に、それに関連する、消費者に不利益な事実を故意に告げない場合に、消費者に取消権を付与するものである。たとえば、業者がリゾートマンションの景観のよさを宣伝しながら、実は数ヶ月後にその景観を台無しにするような建物の建築計画があることを知って、顧客に当該リゾートマンションの購入を勧める場合等がこれにあたる」(60頁)と解説している。
原告は、一、1、(2)で述べた本件アルス北側隣接地における訴外隣地所有者の建物(作業所・居宅)建築(建替え)計画が、この不利益事実に該ると主張するのである。
(2)本件アルス北側隣接地における訴外隣地所有者の建物(作業所・居宅)建築(建替え)計画については、本書面一、1、(2)で述べたとおりである。
同隣接地に存在した隣地所有者所有の昭和53年6月15日新築の建物(種類作業所居宅、構造木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建、床面積・1階33.66平方メートル、2階15.83平方メートル。甲51の3。その形状については、甲43の1〜4。以下、「旧建物」という)を、アルスが完成したらすぐ3階建の作業所・居宅に建替えるという計画である。
アルスは、平成14年11月20日着工(甲15)、同15年6月26日原告と被告同マンション301号室売買契約(甲3、4、原告本人調書2頁)、同15年9月4日完成(甲2)、同月29日原告に引き渡し(原告本人調書5頁、乙6)、同年10月下旬原告同マンション301号室に入居(原告本人調書5頁)といった経過を経て、平成16年2月訴外隣地所有者の新築建物についての建築確認、同年3月の終わりから4月にかけて旧建物の取り壊し(隣地所有者証人調書12〜13頁)、同年6月ころ着工(前同16頁)、平成16年の12月には完成の予定であったが、平成17年12月22日(隣地所有者の証人尋問期日)現在完成していない。工事の遅延には、本件裁判も「十分関係している」(前同調書16〜17頁)。
訴外隣地所有者の新築中の建物(作業所・居宅)の状況は、甲10(平成17.2.5現在)、乙3(平成16.10)・乙4(アルス3階平面図と隣地建物(「隣地所有者宅(建替え)」)配置図(但し、巻尺は不正確))、甲9の1〜4(平成17.1.9現在)、甲25の1(平成17.1.8)、甲25の2(平成17.7.24)、甲25の3(平成17.7.24)、甲25の4(平成17.7.16)、甲25の5(前同)、甲25の6(平成17.2.5)、甲25の7(平成17.1.8)、甲25の8(平成17.2.5)、甲25の9(平成17.7.24)、甲25の10(前同)、甲25の15(平成17.1.8)、甲25の18(平成17.7.16)、甲25の19(前同)等。
これらの証拠(写真)からすれば、本件北側隣接地建物が、被告が本件住戸(アルス301号室)の売買契約の締結を勧誘するに際して強調したセールスポイントである日照・採光、眺望・景観等を奪い去ることは明白である。
このような建物が新築されることは、遅くとも、アルスの工事着工(平成14.11.20、甲15)の前から建築主である隣地所有者から被告を含む同マンションの工事関係者に繰り返し語られてきたことであり、そのことを承知している限り、前掲各証拠に表象される状況の現出は当然に予測されることであった。
この訴外隣地所有者の建築(建替え)計画は、被告側の勧誘内容からすれば、原告の住環境の極端な悪化をもたらすものであることは疑う余地がなく、消費者契約法4条2項の当該消費者(原告)の「不利益となる事実」である。
被告は、前記不利益事実を充分承知していた。そして、それにもかかわらず、被告は、それを原告に「故意に告げなかった」(消費者契約法4条2項)のである(訴外隣地所有者の建築計画を原告に告げなかったことは、被告も認めている)。
訴外隣地所有者の本件アルス北側隣接地の建築(建替え)計画は、先ず、同隣地所有者と同マンションの敷地の前所有者訴外康和地所の同マンション建設担当者井田真介との間で、平成14年8月前後から何度となく繰り返し話されてきた(井田証人調書17〜19頁、乙6−1/2、2/2)。
その計画の内容は、@アルス建設後すぐに建てる、Aその建物は3階建(1階は作業所、2・3階は居宅)というものであり、それに関連して、@隣地所有者新建物と隣接するマンション北側の2階(201号室)、3階(301号室)の窓を曇りガラスとする、Aマンションと隣地所有者所有地との間の塀は、アルミフェンスをやめてコンクリート塀にする、Bマンションの窓と隣地所有者新建物の窓とが重なった場合、目かくしは隣地所有者側につけることとし、費用は被告の負担とする、Cマンションの購入者から、隣地所有者の仕事(建設業)等に苦情が出ないようにする、Dマンションの前記隣接住戸である2階・3階の購入者に、3階建の隣地所有者新建物が建つことを必ず話すこと等が合意された(甲13−2〜3頁、補足、乙6−2/2、井田証人調書17〜19、21頁等)。
また、井田(被告側)の方からは、@隣地所有者の旧建物の一部が被告所有地(アルス敷地)へ越境していることの確認、隣地所有者が新建物を建築する場合の建築基準法の法令遵守等についての覚書作成(参照、乙11)、A所有地の共用地番分離の協力要請がなされ(甲13、隣地所有者証人調書)、後に隣地所有者はこれに協力している(乙11、甲51の3)。
この訴外隣地所有者と井田との合意等は、平成14年9月と11月の時点で、全て被告に引き継がれた(井田証人調書21〜22頁、24頁。関口証人調書22、甲13−2〜3頁、隣地所有者証人調書5〜6頁等)。
従って、被告は、訴外隣地所有者の本件建物建築(建替え)計画の内容(時期、規模)は充分に知っていたのである。
原告が、この隣地所有者建物の新築に気付いたのは、アルス入居(平成15.10下旬)後の平成16年6月、同建物の基礎工事をやってる頃(原告本人調書6頁、甲2−46頁、隣地所有者証人調書14〜15頁)である。以来、原告は、一方で隣地所有者に事情を確認するとともに、他方、被告側と、自ら購入取得したアルス301号室の住戸から日照・採光、眺望・景観等を奪い去ることの明確な不利益事実の不告知の問題について、真相を明らかにし、善処方を求めるため、あるいは文書で、あるいは面接するなどして折衝を重ねたが、被告は全く不誠実な態度に終始した(その折衝経過については、原告本人調書7〜8頁、甲42−52〜57頁、甲48−9頁、甲47−5〜12頁、甲26、甲28、甲30、甲32、甲34、甲36〜38)。
被告の態度は変転している(甲42−53〜57頁)が、「不利益事実」との関係でいえば、当初、隣地所有者建物(作業所・居宅)の建替の話は全然聞いていないから始まり、文書回答では、「将来的に建替えたい」という「希望」(平成16.9.24。甲30)は聞いていたとし、漸く平成16年10月15日付の回答(甲32=乙7の1)で、「・・・・・・隣地所有者様が井田氏へお話した内容についての改めて確認させていただきました所、アルスが建ってからすぐに建てる旨、3階以上は建てない旨、住まいと仕事場が一緒になるから騒音がある旨の内容は伺っておりました」と隣地所有者の本件建物建築計画の内容自体承知していたことを認めるに至っている。
もっとも、その後、被告の回答は、「建替えたい旨」(平成16.11.19。甲34)、「建替のご意向」(平成16.11.30。甲36)、「アルスが建ってからすぐに建てたい」、「3階建を建てたい」(平成16.12.16。甲37。平成17.1.8付の回答も同旨。甲38)と文言は微妙に変化しているが、被告の平成17年4月21日付準備書面3枚目は、前記一、2(被告の主張)で引用・指摘したとおり、前掲甲32(=乙7の1)の内容を採用している(被告の平成17.7.8付準備書面4頁は、「本件マンション竣工後において建物の建築希望があること、それが3階程度であることを了知していた」と従前の平成17.4.21付の準備書面での主張を変更している)。
甲32や被告の主張(平成17.4.21付準備書面3枚目)からしても、「その具体的な着工時期建築内容などが未確定であった」(前同準備書面3枚目)、「建替え時期・建築概要(構造・階数)について詳細が未定であった」(甲32)等の留保を除けば、隣地所有者の@アルスが建ってからすぐに、あるいは竣工後地盤の様子を見てから建てること、A建築内容は3階建で作業所兼住居であることという建築計画それ自体は、その限りで、それを原告に告知する義務の有無はともかく、被告において承知していたといわねばならない。
隣地所有者がアルス完成後すぐ建てる、確実に建てるということは、被告のみならず、同マンションの工事関係者にも、よく知られたことであった。
例えば、訴外隣地所有者と被告側井田真介の合意に基づき、アルスの2〜3階は型ガラスとし、4階以上は透明ガラスとしていること(井田証人調書17〜19頁、甲13−2〜3頁、補足、甲42−31頁等)、A同隣地所有者は井田(被告)の要請に応じ、隣地所有者の旧建物の一部が被告所有のアルス敷地へ越境していることの確認、隣地所有者が新建物を建築する場合の建築基準法等の法令遵守等についてを内容とする覚書に調印(乙11)していること、B被告は、アルス建設に際し、マンション建設の際には通常行う近隣住民の家屋調査を、訴外隣地所有者については行っていないこと(甲14−26頁、甲48−29頁)、Cアルス工事完了後も、同隣地所有者の所有地との境界のシートパイルは埋められたままになっているが、これは隣地所有者がアルスの竣工後すぐ同人の建物を新築するため、地盤への影響を懸念し、同シートパイルの残置を依頼し、施工会社(注、ピーエス三菱)がこれに応じて残置したものであること(甲48−28〜29頁)、D同じくアルスの工事完了後、工事現場の人達も、隣地所有者の建物新築について「全部認識があり」、「余った材料をみんな・・・・・・、すぐ使うでしょうということで、タイルとかそういうのが全部置いていってくれました」(隣地所有者証人調書29頁)という事実もあること等の諸事実は、隣地所有者の本件建物建築(建替え)計画の実現の早期性、確実性を物語るものというべきである。
消費者契約法4条2項の当該消費者に告知すべき不利益事実は、前述したように、当該消費者に「不利益を生じさせる恐れがある事実」と解すべきである(前掲『逐条解説消費者契約法』79頁)から、本件においては、@隣地所有者の作業所・居宅がアルス建設後すぐ建てられる、Aその建物は3階建であるということだけで、仮に、その建築の着工の日程が、何年何月何日と決まっていなくても(そもそもアルスの竣工日が、実際には不定ゆえ、決めようもない)、建築確認の申請が平成15年11月7日時点で行われておらず、建物の構造が未確定であったとしても(アルスの建築確認は平成14年8月12日付であり、工事着工の3ヶ月前である。甲42−45頁)、「階数」は3階であること、そしてその敷地の所在も明確なのであるから、前記の二点だけで、同条項にいわゆる不利益事実に該たるというべきである。
被告には、その事実を原告に告知する義務があったのである。
被告が、知っていた前述の訴外隣地所有者のアルス北側隣接地の建築(建替え)計画を原告に告げなかったことは、被告も認めている。しかし、被告は、「原告に対し、『故意』に『不利益となる事実』を不告知(隠していた)してはいない。被告は、原告に対して、本件マンションの北側隣地において、法令に適合した建物であれば建築される可能性のあること、その結果、建築されると現況の日照、眺望、通風、景観等の住環境に変化が生じることを本件説明によって告知していた。北側隣地に建築されてその結果住環境に変化が生ずることが前同法(代理人注、消費者契約法)4条2項の『不利益な事実』であるとすれば、告知して説明していたというほかない」(被告の平成17年7月8日付準備書面3〜4頁)とも主張し、証人関口冬樹も、この主張に沿った証言をしている。
しかし、このような主張・立証は失当である。
第一.消費者契約法4条2項の「故意に告げなかった」の「故意」とは、「消費者に契約に向けた動機づけを与えるために、利益となる事実を告げた事業者は、それに関連する不利益な事実の情報も提供すべきであるという本項の趣旨からは」、「当該消費者に不利益な事実が存在することの認識」で「足りると解すべきである」(前掲『コンメンタール消費者契約法』62〜63頁)。それが「隠す」の意味であるとすれば、詐欺の故意と変わりがないことになってしまう。
もっとも、本件の場合、被告の販売担当者は、アルスの4階購入者に対しては、「隣の物置はアルスの完成後すぐに三階建てに建替えられる」と説明し(甲46)、301号室の購入者原告に対しては、北側に隣接する建物(旧建物)を「資材置場」、「倉庫」と説明し(原告本人調書3頁、甲12、甲14−19〜20頁等)、2階の購入者に対しても、「物置」、「倉庫」と説明している(甲45)のである。被告は、「原告に不利益な」事実を「隠した」といっても過言ではない。
第二。被告の主張・立証は、要するに被告の本件重要事項説明(甲5の2)によって、不利益事実の「告知」をしたことになるというものである(被告の平成17.4.21付準備書面3枚目は、前述したとおり、告知は、「本件において、本件北側建物計画について建築時期、建築内容等具体的な事実が決まっていない以上『重要事項説明書』(甲5の2)記載内容で十分と思慮している」と述べている)。
本件重要事項説明書は、「覚書」の「(6)周辺環境について」と題する項目で「@周辺環境につきましては、建築物の建築、建替え、増改築などにより、将来変わる場合があること。また、本件建物の隣接地は第三者の所有地となっており、将来の土地利用または建築計画に関して売主の権限の及ぶ範囲でなく、一般的には都市計画法・建築基準法その他の法令等による制限の範囲に該当する建築物であれば、建造が許可されるため、将来本物件の日照・眺望・通風・景観等の住環境に変化が生じ、現在と異なる近隣および周辺環境による場合があること、A本件建物敷地は商業地域を含んでおり、周辺道路や近隣商店の営業等により騒音等が発生する場合があること。」(甲5の2−23〜24頁)というものであるが、それは、自ら述べるとおり、まさしく「一般的」な記述であり(参照、関口証人調書23頁)、被告の主張する「本件マンションの北側隣地」に何ら言及するものではなく、また、被告の担当者宮崎英隆(重要事項の説明者、宅地建物取引主任者)も、平成15年6月26日(木)の重要事項説明の際、原告の「北側の建物も指しているのか」との「質問」に対し、「そういうものではない、一般的なものだ」と「回答」している(原告本人調書3頁、甲14−23頁、甲42−33頁、甲48−3〜5頁、甲47−4〜5頁)のである。
このような、「将来」についての「一般的」な説明をもって、本件北側隣接地の建替え計画という原告の不利益事実を告知したとすることは、到底許されるものではない。
また、被告は、「本件において、本件北側建物計画について建築時期、建築内容等具体的な事実が決まってない以上」、「その具体的な着工時期、建築内容など未確定であったため、重要事項説明書(甲5の2)」の「記載内容で十分と思慮している」(前掲、被告の平成17.4.21付準備書面3枚目)とも主張し、証人関口冬樹も、その旨証言するが、言葉の正確な意味で、前記計画が未確定であっても、隣接地に3階建の建物(作業所・居宅)が建築されるということは、被告において承知していたのであるから、「確定的じゃなければかもしれない、そういう可能性みたいな形でも記載じゃなくて口頭で説明する方法もあるわけで」あり、「重要事項なんて書面にする必要がなく、購入者に口頭で説明することができる。後から文句が出ない、かもしれませんよという説明の仕方もあるわけでしょう」との裁判官の質問に対し、同証人は「はい」とそれを認め、そして、同じく「・・・・・・もう隣地所有者さんは隣地で建つかもしれないとそういう話があるのを1階から3階の北側の購入者に伝えることは可能でしょう」との質問に対しても、同証人は「はい」と認め(関口証人調書23頁)ながら、それにもかかわらず、被告は3階の原告や2階の購入者に対して、何ら説明していないのである。
証人関口冬樹は、その不説明・不告知の理由について、「隣に家が建つんだなんて事前に言ったら」、「ほかのお客様に対して・・・・・・」「誤解を招く」旨述べるが、「不確定で誰が不利益をこうむるの」との裁判官の質問に対しては、「ええと・・・・・・」というのみで答えることはできなかった(前同調書24〜25頁)。
要するに、被告は、買主(当該消費者)の不利益となる事実に関する情報にいては、相当な理由もなく、一切提供しなかったのである。被告の本件重要事項説明書(甲5の2)の記載が、不利益事実の告知に該たる、あるいは同重要事項説明書の記載内容で十分である等の主張は、消費者契約法4条2項の潜脱のためにする強弁といわざるを得ない。
以上述べたところから、被告が「当該消費者に対してある重要事項」等について、「当該消費者」(原告)の「利益となる旨を告げ」、「当該重要事項」について、「当該消費者」(原告)の「不利益となる事実」を「故意に告げなかった」ことは明確であり、そのことと当該不利益事実が存在しないとの原告の誤認および原告の本件アルス301号の住居の倍愛契約(「消費者契約」)申込の意思表示との因果関係は明白(甲14、甲42、甲48、原告の本人尋問。甲47。弁論の全趣旨)であり、消費者契約法4条の要件を十分に充たすものである。
従って、原告は同条項に基き、本件売買契約の取消権を取得し、同取消権を行使して請求の趣旨記載の判決を求め、本訴請求におよんだ。請求認容の判決を望んでやまない。