二子玉川東地区再開発差止訴訟は原告敗訴

住民の不利益を認定したものの、差し止めは棄却

林田 力(2008-05-15 09:20)
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 二子玉川東地区第一種市街地再開発事業の差し止めを求める訴訟(山田俊雄裁判長)の判決が2008年5月12日東京地方裁判所にて言い渡された。

 東京都世田谷区玉川の約11ヘクタールの土地に超高層ビルなどを建設する再開発事業の差し止めを求めて、周辺住民ら64名が二子玉川東地区市街地再開発組合を提訴した裁判である。

 山田裁判長は主文で「原告らの請求をいずれも棄却する」とし、原告敗訴の判決を言い渡した。

 原告住民側は判決を不服として控訴を検討すると表明した。

  判決が言い渡された東京地裁611号法廷には原告ら地域住民が多数詰め掛け、傍聴席をほぼ満席状態にした。多くの住民が廷内に入れるよう、書記官の配慮で 原告席にいすが追加されたほどであった。事前に取材申請がなされたため、判決言い渡し前にはメディアにより法廷内の撮影が行われた。

 一方、判決言い渡しは主文のみで理由の朗読はなされなかった。そのため、言い渡しは、あっという間に終わった。撮影時間の方が長かったほどである。

 二子玉川東地区東地区再開発の問題が社会の関心を集め、その波が裁判所にまで押し寄せている一方で、裁判官のやり方には変化がないことを象徴しているようにも思えた。

 判決は二子玉川東地区再開発事業により、眺望の破壊や圧迫感などの不利益が生じると認定した。

 しかし、社会生活上の受忍限度を超えるものではない、として、差し止め請求を否定した。また、二子玉川東地区再開発事業が都市再開発法などに違反しているとの主張については、原告らの権利や法的利益の侵害の主張ではないとして、法違反の有無を判断せずに退けた。

原告側は記者会見で怒りを表明

 判決後、原告および原告代理人弁護士による記者会見が第二東京弁護士会1002号室および司法記者クラブにて行われた。

 原告主任代理人の渕脇みどり弁護士は

 「原告の主張を理解していない、大変不当な判決」と述べた。民事訴訟で再開発差し止めを求めたことについては「東急グループの利潤追求のための再開発であることが明確であったため、再開発の責任主体である再開発組合を提訴した」

と説明した。

 渕脇弁護士によると、大地権者である大企業が再開発組合を牛耳り、中小地権者を事実上追い出してしまうという、大企業本位の再開発の問題がほかでも起きているという。その典型的な事案として二子玉川東地区再開発事業の差し止めを求める意義は大きいとする。

弁護士会館で記者会見する原告の飯岡氏。右隣は同じく原告の野崎氏=12日(撮影:林田力)
 原告の飯岡氏は

 「判決文で一番腹が立ったのは、都市再開発法などの違法性について追求していたにもかかわらず、内容を判断せずにわずか3行でバッサリと切られてしまったこと」

と述べた。加えて

 「判決では再開発の問題について細かく分け、個別に判断を加えているが、原告は総合的な問題と主張している。判決には、その点の考慮がない」

と批判する。

  「東急グループは沿線の住宅を優良住宅地として分譲してきた。その東急が地域住民の犠牲の上に街壊しをしている。だから東急が主体の再開発組合を訴えた。 再開発をめぐるトラブルで心の病気になった住民もいる。街壊しは景観を破壊するだけでなく、人も壊してしまう。控訴して戦い続けたい」

 原告の野崎氏は

 「二子玉川東地区再開発は街づくりの計画ではない」

と断言した。また、

 「東急がビルと床をつくって売り逃げする計画である。現地を見れば誰も良いプロジェクトとは思わないだろう」

と主張した。

 原告の辻氏は

 「とても怒りを感じる。再開発地域の85%が私企業である東急グループの所有地であるのに、どうして公共の利益をもたらすものができるのか。700億円の公金を支出するのか」

と問題提起した。そして国分寺崖線(がいせん)と多摩川の間の狭い土地に高層ビルを建設する危険性を訴えた。

判決では住民の不利益を認定

 本判決では差し止めは否定したものの、二子玉川東地区再開発事業によって、原告住民に不利益が生じることを認定した。

 判決が差し止めを否定したのは、それを認めるほどの「受忍限度を超えた不利益」ではないとしたためである。

 それは、「不利益があっても、我慢(受忍)しろ」と言われたことと同じであり、原告にとって受け入れ難いものである。実際、原告からは「想像力がない」「現地で生活している人の視点がない」との声があがった。

 控訴審では圧迫感など再開発事業で生じる不利益が人間としての生活を損なうほどの不利益であることを緻密(ちみつ)かつ具体的な立証をしていくことが課題になるだろう。

 本判決での受忍限度は、差し止め請求を判断でなされたものであることは理解しておく必要がある。これは被告が違法性段階論として強く主張した点である。

 すなわち差し止め請求は、損害賠償と異なり社会経済活動を直接禁止し、影響範囲が大きいため、その受忍限度は金銭賠償の場合よりもさらに厳格な程度を要求されるべき、との考え方だ。

差し止め請求アプローチ VS 損害賠償請求アプローチ

  この考えに立つならば、本件は差し止め請求であるため棄却されたが、原告に不利益が生じることは認定しており、損害賠償請求ならば認容される余地があるこ とを意味する。すなわち再開発組合にとっては周辺住民の被害が顕在化した際には不法行為として損害賠償請求を受ける危険がある。

 周辺住民としては被害を顕在化させたくないために、再開発の差し止めを求めており、損害賠償請求を行う時は最悪の事態であるが、そのような状況になれば再開発事業も成功とは評価されなくなるだろう。

  再開発組合にとっては本訴訟に勝訴することではなく、再開発事業を成功させることが目的のはずである。再開発事業が住民にメリットではなく、不利益をもた らすものでしかないことが確認された。再開発を進める側は住民に対し、「受忍限度内だから我慢しろ」と主張することでしか再開発を正当化することができな い。そのような再開発事業では、反対の声が消えることはないであろう。

 原告らは本件訴訟について控訴の意向を表明した。また、周辺住民らは世田谷区に対しても、二子玉川東地区再開発事業への公金支出差し止めを求めて住民訴訟を提訴しており、現在係属中である。

 本判決によって、二子玉川東地区再開発をめぐる紛争は、住民に不利益が生じることを前提とした、新たな戦いの段階に突入したといえる。

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