消費者庁よりも消費者行政の中身が問題だ

一元化が消費者の利益とは限らない

林田 力(2008-04-16 10:30)
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 消費者行政を一元化する新組織として消費者庁の創設が議論されている。消費者行政に対する関心の高まりは歓迎すべきことであるが、消費者庁という行政機 関を新設することが消費者重視の行政を実現するための唯一の解決策ではない。逆に消費者庁は行政の消費者軽視を進める方向にも機能する危険性があることに 注意したい。

  消費者庁創設が議論される背景には、耐震強度偽装事件や食品偽装問題など消費者問題が相次いでいることが挙げられる。これら続発する消費者問題に対し、現 行の行政が効果的に対応できておらず、それどころか被害を拡大させてしまっていることもあるのではないか、という点が出発点である。一言でまとめるならば 現在の行政が消費者重視になっていないという問題意識がある。

 これには大きく2つの理由が挙げられる。これらは相互に関係している。第 1に縦割り行政の弊害である。消費者行政は業務範囲が業界ごとに区切られている複数の行政機関に分断されている。経済産業省、農林水産省、厚生労働省、国 土交通省、金融庁などである。このため、統一的な消費者行政が行われにくい。

 第2に行政が業界寄りの性格を有しているという点である。明治時代は富国強兵、戦後は経済発展至上主義が日本政府の政策であり、産業の保護育成が使命であった。消費者問題においても消費者の立場よりも企業の論理を代弁する傾向は否定できない。

  消費者庁創設を求める立場は、消費者庁によって上記2点の解決を企図しているものと考える。すなわち、消費者庁が消費者行政を一元的に担当することで、縦 割り行政の弊害を解消する。また、消費者庁を消費者の立場を代弁できる行政機関とすることで、消費者重視の政策の実現を目指す。

消費者庁がすべてを解決してくれるのだろうか?

 しかし、消費者庁の創設は、消費者重視の行政を目指す場合の唯一の解決策ではないと考える。

 第1の縦割り行政の問題であるが、そもそも担当機関が複数あることが消費者にとって不利益であるか、という点を問題提起する。消費者問題を扱う部署が複数ある弊害としては以下が考えられる。

(1)消費者が、どの部署に行ったらいいか分からないことによる混乱がある。

(2)別の部署にたらい回しにされる危険がある。しかも両方の部署から、たらい回しにされて、結局、どの部署でも担当しないという状態になる危険もある。

 部署Aでは「部署Bが処分しない以上、部署Aが処分する訳にはいかない」と説明する。しかし部署Bでも「部署Aが処分しない以上、部署Bが処分する訳にはいかない」と説明する。誰も判断しない無責任状態が正当化されかねない。

 記者としても、上記2点は複数機関並立の弊害であると考えている。よって消費者行政を一元化する消費者庁の創設によって解消できるならば、それは改善であると評価したい。しかし、一元化組織を創設することが弊害解消のための正しい解決策とは考えない。

 まず(1)については、本当に複数部署を設置することに意義があるならば、消費者が混乱しないように分かりやすい広報を徹底することで解決することが正道である。

  次に2の点については根本的な問題は面倒な仕事をしたくないという公務員の無気力主義にある。複数部署の存在は正当化するための口実に使われているに過ぎ ない。担当者の体質が変わらない限り、一元化する組織が創設されたとしても別の理由を持ち出して消極的な姿勢を続けることになる。従って、一元的な組織を 創設しただけでは根本的な解決にはならない。

複数機関が並立することは消費者にとってメリット

 一方、消費者にとって複数機関が並立することにはメリットもある。消費者にとっては相談先が多いことを意味する。ひとつの機関では相手にされなくても、別の機関で対応してくれる可能性がある。

 これは記者自身が不動産トラブルで身をもって経験したことである。記者は東急不動産からマンションを購入したが、不利益事実(隣地建て替えにより日照が阻害されることなど)が説明されなかったことが判明したため、売買契約を取り消した(参照「東急不動産の遅過ぎたお詫び」)。

 この問題に際して、多くの行政機関に相談や申し立てをした。主な機関を挙げると以下の通りである。

・国土交通省関東地方整備局建政部建設産業課:宅地建物取引業法(宅建業法)の重要事項不告知について
・東京都都市整備局:宅建業法の重要事項不告知について
・公正取引委員会事務総局取引部景品表示監視室:不動産広告の虚偽について
・経済産業省関東経済産業局消費者相談室:だまし売りについて
・総務省東京行政評価事務所:国土交通省による処分について
・東京都生活文化局:東京都消費生活条例違反について
・江東区都市整備部建築課:建築確認について
・江東区消費者センター:消費者契約法について

  これらの中には記者にとって有益なものもあったし、残念ながら、時間の無駄に等しいものもあった。強調したいことは、複数の機関が存在していたからこそ、 有益なところに行き着くことができ、東急不動産の問題を広げることもできたという点である。もし一つしか機関がなければ、仮に、その機関でまともな対応が なされなければ、それで終わってしまう。

 窓口の一元化が消費者にとって便利であることは事実である。しかし、その窓口が消費者の声を受 け止めなければ、それで終わってしまうというリスクがある。これが消費者行政を一元的に担当する消費者庁の創設によって、反対に消費者軽視の方向に進みか ねないと懸念する理由である。

 上記の理由から消費者庁は、可能な限り消費者の声を行政に反映させないようにしたい立場にとっても内容に よっては賛成できるものになる。近年、消費者問題が深刻さを増していることは事実である。これは企業が以前よりも悪質になったということを必ずしも意味し ない。むしろ消費者の意識が高まった結果という面がある(インターネットのような情報インフラの発達も後押しした)。この傾向は今後も強まりこそすれ、弱 まることはないだろう。好むと好まざるとにかかわらず、行政への消費者の圧力も強まるだろう。

 そこで、行政が業界寄りであり続けるため のいわば防波堤として、消費者庁を位置付けようとする発想が生まれてもおかしくない。従って消費者庁構想を推進する側に、そのような発想がないか注意する 必要がある。結局のところ、新組織を創設することではなく、どのような機関を創設するのかが問題である。

 ここで第2の行政が業界寄りの 性格を有している点が関係してくる。現実問題として現行の省庁が業界寄りであるならば、消費者の味方というべき機関を創設することには一定の意義はある。 しかし、福田首相が「消費者重視」を政策として掲げるならば、現行の省庁が業界寄りであるという点から改めるべきであり、消費者行政を分担する全省庁が消 費者重視の姿勢を持たせるようにするのが筋である。現行の省庁が業界寄りのままでは、消費者庁を新設しても上述の防波堤として機能するか、せいぜい政府内 野党的な存在にしかならない可能性が高い。

 やはり重要なことは消費者行政の中身である。行政機関を消費者重視の姿勢に変えていく必要が ある。それは「消費者重視を念頭に仕事をするように」というような精神論では変わることは難しい。官僚は業界団体や企業とはさまざまな形で交流しており、 天下りという「人事交流」までしている。業界寄りになるのは当然の帰結である。

 消費者重視にするためには消費者や消費者団体が消費者行政に積極的に参加し、その声が反映される制度を構築していかなければならない。各種審議会では消費者関係の委員を増やす、消費者団体出身者を主要ポストに任命するなどの措置が望まれる。

  以上、消費者庁という一元化組織を新設することが消費者重視につながるか考察した。結論としては消費者重視にしていくこともできるし、反対に消費者軽視に 機能させることもできる。縦割り行政を解消し、消費者行政を一元化する機関を創設するというだけでは消費者が喜ぶには早すぎる。どのような組織にするか、 どのような政策を採るか次第である。消費者行政の一元化組織についての議論を注視していきたい。

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