土地所有権移転の登記申請書を閲覧した

信頼性の高い「登記原因」情報を作るには

林田 力(2008-03-27 11:30)
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 東京法務局中野出張所(中野区野方)にて土地所有権移転登記の「登記申請書」を閲覧した。

  通常、例えば不動産を購入する場合などは「登記簿謄本(全部事項証明書)」を取得する。これによって土地についての権利関係を確認できる。登記には権利推 定力が認められている。即ち、登記簿の内容は実際の権利関係に合致していると推定される。このため、登記簿の内容は一応、信頼できる。

  しかし、現実には実際の権利関係とは異なる登記は存在し得る。これは登記手続きでは形式的な書類審査しか行わないためである。住民票や実印、印鑑証明書、 権利証(登記識別情報)を無断で借用、または偽造できるならば、登記できてしまう。この結果、自分名義の筈の土地が登記簿上は譲渡されてしまったり、抵当 権が設定されてしまったりという事態が起こりうる。このようなことを行う犯罪者は地面師と呼ばれる。

 このような場合、先ず登記簿を調べることになるが、登記簿に記録された権利変動に不審点がある場合、どのような形で登記申請がなされたのか調べる必要がある。

  調査の必要はたとえば、相続問題で生じる。故人(被相続人)の所有(相続財産)と思っていた不動産が、相続人の一人または第三者に所有権移転されていたと いうこともある。そのような所有権移転登記の原因となる契約などが実際に行われていることを相続人が知っていれば問題ないが、そうでなければ、実体がない のに勝手に名義を変更したのではないかという疑いが生じる。

 たとえば、相続対策として特定の相続人に不動産を生前贈与する例は少なくな い。全相続人了解の下で、生前贈与したならば問題ない。しかし、そうではない場合、同居の相続人が勝手に親の権利証や実印を利用して、被相続人の知らない ところで登記した疑いが、他の相続人から生じ得る。このような場合に登記申請書を閲覧する必要がある。

 「登記簿」は不動産に関する権利 関係の公示が目的なので、誰でも確認できる。これに対し、「登記申請書」は登記申請するために申請人(の代理人)が作成し、法務局に提出した書類なので、 閲覧は利害関係のある人に限られる。たとえば前述の相続の例ならば、利害関係者とは、相続人である。閲覧中にメモをとることや写真撮影は認められるが、コ ピーをとることはできない。

  ◇

 法務局のカウンターで「登記申請書」の閲覧を希望したところ、受付の人では対応の範 囲を越えるためか、別の人に担当が代わった。最初に、どの申請書の閲覧を希望するのか尋ねられた。問題の不動産登記の全部事項証明書を提示し、閲覧したい 登記申請の受付年月日・受付番号を答える。

 続いて利害関係を聞かれた。予め用意した戸籍全部事項証明書と身分証を提示し、土地所有者で あった被相続人の相続人であることを説明した。申請書を渡されるので記入し、法務局内の印紙売場で購入した登記印紙(収入印紙とは別物)を貼り付けて提 出。しばらく待つと閲覧できる。

閲覧申請で購入した登記印紙購入時の領収書(撮影:林田力(2008年3月14日))
 登記申請書は大体、以下のような内容になっている。

・登記申請書
・印紙貼付台紙
・登記義務者(不動産の譲渡人)の住民票
・登記義務者の印鑑証明
・登記義務者・登記権利者(不動産の譲受人)の司法書士への委任状
・登記原因証明情報
・登記権利者の住民票
・固定資産評価証明書


 申請書を閲覧することによって、どの司法書士に依頼したのか、いつ司法書士に委任状を提出したのか、署名の筆跡などを確認できる。

  閲覧する上で最も肝心な資料は「登記原因証明情報」である。これは不動産登記法第61条に定めた「登記原因を証する情報」で、登記の原因となった事実や法 律行為を示す情報をさす。「登記原因証明情報」という名前の文書が求められている訳ではなく、具体的には、売買ならば、売買契約書がこれに相当する。

 売買契約書だけでは権利移転日が不明な場合(たとえば契約書で残金支払い時を権利移転時と定めた場合、など)、売買契約書に加え、残金の領収書も必要になる。

 前述の通り、登記官は書面審査しか行わない。したがって、登記申請の内容が正しいか否かは、この「登記原因証明情報」の内容が申請内容と矛盾しないか否かによって判断される。これによって、書面審査しか行わないながらも、登記の信頼性を高めている。

 とはいえ、制度には抜け道もある。登記原因証明情報という名前の文書を作成して、登記申請することがままあるのだ。これは登記の原因についての事実を記載したものに当事者が署名押印したものである。

  例えば、「乙は、甲に対し、平成××年×月×日、本件不動産の所有権を贈与し、甲はこれを受諾した」と書かれた登記原因証明情報と題する文書に譲渡人・譲 受人が署名捺印するものである。文面は司法書士が用意し、当事者は署名捺印する。登記のために用意された文書であるため、登記の原因となった契約などを調 査するのは難しくなる。

 売買契約書ならば売買代金、手付金の額、その他の契約条件など詳細な内容が書かれていることが多く、閲覧によって契約の内容をつかむことができる。

 しかし、「乙は甲に本件不動産を売却し、それによって権利が甲に移転した」というだけの登記原因証明情報では契約の実体は不明である。

  ◇

 以下、登記申請のために登記原因証明情報という文書を作成することの得失をまとめたい。

  まず、社会的要請である。そもそも契約は意思表示によって成立するものであり、契約書の存在は必須ではない。口頭でも契約は有効に成立する(但し、宅地建 物取引業者には書面の交付が義務付けられている。宅地建物取引業法第37条)。そのため、登記申請のために登記原因証明情報を作成する必要が生じる場合は 否定できない。

 一方、登記原因証明情報の添付が登記の信頼性を高めることを目的としていることを考えると、登記原因の実体を把握できる資料の方が望ましい。可能な限り生の資料を添付することが社会的要請といえる。

  次に、登記申請人(契約当事者)の立場で考えてみる。契約当事者にとっては登記とは関係ない売買代金のような情報を、法務局に保管される登記申請書に添付 したくないという思いがある場合もあるだろう。この場合、登記申請に必要最小限の情報を記載した登記原因証明情報を新たに作成する方が望ましいことにな る。

 一方、契約書のような資料を登記原因証明情報とすることは申請人の権利を守るものでもある。契約書とは別に登記申請のために登記原 因証明情報を作成するということは、契約書と異なる内容になってしまう可能性がある。相手方当事者と司法書士の悪意が介在すれば不可能ではない。その結 果、契約書で意図したものと異なる内容で登記されてしまい、損害を被りかねない。

 登記原因証明情報も自らが内容を確認した上で署名捺印するのだから自己責任と主張されるかもしれないが、実際問題として契約書に署名捺印する時ほど熟慮して、登記原因証明情報に署名捺印することはないだろう。

 専門家である司法書士に登記手続き上必要な書類と説明されれば「そういうものか」と署名捺印してしまいがちである。契約書を登記原因証明情報にすれば、たとえ司法書士に如何なる悪意があろうとも、契約書と矛盾する内容での登記はできない。

 じつは、この点については記者に苦い経験がある。記者は東急不動産から購入したマンションの売買代金返還を求めた訴訟で、売買代金の返還を受け、登記原因を「訴訟上の和解」で所有権を移転登記するという内容の、訴訟上の和解を成立させた。

 ところが、和解の履行時期になって東急不動産側は登記原因を「和解」とする登記原因証明情報への署名捺印を要求してきた(参照「東急不動産、「和解成立」後も新たなトラブル」)。

 これに対し、記者は和解調書を登記原因証明情報とし、和解調書どおりに登記申請することを主張した。最終的に記者の正論が通ったが、東急不動産の主張に従っていれば、和解調書とは異なる内容で登記されたことになる。

 最後に申請手続きを行う司法書士の立場を考える。司法書士にとっては登記申請用に作成したとは限らない契約書を使用するよりも、自ら作成した定型的な「登記原因証明情報」に記名捺印させた方が楽という発想がありうる。

 しかし司法書士の職業倫理からすれば、登記の真実性を高める方法を選択すべきである。真実性を高めるとは、単に自分が正しいことを行うというだけではなくて、第三者が事後的に確認できるように証跡を残しておくことも必要と考える。そうでなければ唯我独尊に陥ってしまう。

  このように考えるならば登記原因証明情報に相当する資料が存在する場合は、それを登記原因証明情報として使用するのが法目的に合致すると考える。建築不動 産業界には「手続きが通ってしまえば、それでいい」という発想が強いように感じられる。その極端な例が耐震強度偽装事件であった。

 登記申請のために作成された「登記原因証明情報」ばかりが利用されるならば、登記においても上記傾向に汚染されていることになる。



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