二子玉川東地区再開発差止訴訟結審

反対運動の広がりが裁判にも波及 5月12日に判決

林田 力(2008-02-15 08:00)
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 二子玉川東地区第一種市街地再開発事業の差し止めを求める訴訟(山田俊雄裁判長)が、2008年1月28日の東京地裁における口頭弁論で結審した。

 二子玉川東地区再開発事業は、東京都世田谷区玉川の約11ヘクタールの土地に超高層ビルを建設し、道路を拡幅する事業である。これに対し、計画地 周辺住民が再開発事業の施行者である二子玉川東地区市街地再開発組合(川邉義高理事長)を相手に、都市再開発法違反などを理由に再開発事業の差し止めを求 めて提訴していた。

 再開発は様々な行政手続きを経るもので、個々の行政手続きに違法性がある場合、行政訴訟として争われる。しかし、本訴訟では再開発事業そのものを住民の権利侵害と位置付け、事業者を被告として再開発の差し止めを求める点で、住民にとって直接的である。

 口頭弁論では、原告から提出された多数の住民による意見陳述書と本件訴訟の証人尋問についての市民メディア記事が論議された。

 この時点で、大勢の住民が陳述書を書いたということは、再開発反対の声が地域に浸透していることを示している。また、証人尋問が、市民メディアに 取り上げられたことも二子玉川東地区再開発事業に対する関心の高まりを示している。反対運動の広がりが、法廷内にも波及したことを象徴する口頭弁論であっ た。

  頭弁論は、以下の流れで進行した。

 ◇ 原告代理人による準備書面の陳述

 ◇ 原告の意見陳述

 ◇ 原告代理人の意見陳述

 ◇ 被告代理人による準備書面の陳述

 ◇ 裁判官3名による合議

 ◇ 証拠(甲第183号証拠~甲第224号証)の採否の決定

 ◇ 判決言い渡し期日の発表

 事前に原告側は「最終準備書面」及び書証(甲第183号証拠~甲第224号証)、被告側は「準備書面(8)」及び「準備書面(9)」を提出していた。

 原告・被告双方の代理人による準備書面の陳述は、単に準備書面を陳述する旨の発言をするだけである。準備書面の内容を、読み上げる訳ではない。これによって、準備書面に書いてある内容を、法廷で主張したことにするという扱いになっている。

 このため傍聴者には、何が論じられているのか、全く理解できない。「口頭」弁論と言いつつ、書面の交換に過ぎず、形骸化していると指摘される所以である。

 原告の意見陳述では、原告の1人である女性が裁判官の前で意見陳述した。意見陳述では、再開発が住民に周知されずに進められることの理不尽を語った。

 「緑が豊かで環境が良いから二子玉川に住み続けているが、最近まで再開発があること自体、知らなかった」

という。

 東急不動産から、分譲マンションを購入した知人は「便利なショッピングセンターができる」との説明を受けたが、超高層ビルが建設されることは説明されなかったと語り、「裏切られた気持ちだ」と聞かされた。住民に隠して進められる再開発の実態を語った。

 続いて自動車交通量の増大による大気汚染など、再開発による被害について陳述した。

  「この場所から引っ越したい」と鬱屈する住民もいるという。再開発組合には、住民への配慮は全くないとする。最後に「司法を信頼しています。正しい判決を宜しくお願いします」と述べ、意見陳述を結んだ。

 原告代理人の意見陳述は、原告の主張のまとめと被告準備書面(9)への反論から構成される。

 まず、主張をまとめると、原告代理人は、この裁判において、二子玉川再開発事業による被害が、生命身体の安全を脅かし、生活の基盤である街そのも のを破壊する深刻なものであると、立証できた、というものになる。その上で、一部で工事が開始されたことにより、再開発事業による被害が現在進行形で現実 化していると述べる。

 そして、再開発事業差し止めへの期待が原告64名の枠を越え、住民全体、世田谷区全体に急速に広がっているとして、1日も早い司法の公正な判断を求めた。

 「被告準備書面(9)」への反論は、準備書面記載の2つの論点に反論した。

 第1に、時機に後れた攻撃防御方法(「後れた」は法律の条文の用語をそのまま使用)についてである。被告は、原告が今回の口頭弁論の1週間前に提出した書証(甲第183号証拠~甲第224号証)は、時機に後れた攻撃防御方法として、却下すべきと主張する。

 これは民事訴訟法第157条第1項に基づく主張である。第157条第1項は、以下のように定める。

 「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる」

 これに対し、原告代理人は、再開発事業の工事着工により、被害が拡大していると主張した。過去に起きた事件ではなく、現在進行中の問題であり、進行中の違法性を立証する証拠を提出することは、時機に後れたものではないと反論した。

 第2に、訴訟記録の流用批判への反論である。2007年11月10日の第3回口頭弁論では、被告が申請した証人として、再開発事業のコーディネーターを務める宮原義明(株式会社アール・アイ・エー代表取締役専務)の証人尋問を実施した。

 被告は、この証人尋問についての記事が、市民メディアに掲載されたことを問題視する。問題の記事は、以下である。

 林田力「二子玉川東地区再開発・差止訴訟被告側証人尋問(1)」

 林田力「住民無視が見えた「二子玉川東地区再開発・差止訴訟」被告側証尋問(2)」 

 被告が問題視したのは、上記記事で訴訟記録(証人尋問速記録)を引用している点である。民事訴訟法第91条第3項は以下のように定める。


 「当事者及び利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、訴訟記録の謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は訴訟に関する事項の証明書の交付を請求することができる。」

 これは、訴訟記録を謄写できる人の要件について定めた条文であるが、被告の論理は、利害関係のない第三者が訴訟記録の謄写を請求できないことをもって、訴訟記録が第三者に公表されることを予定していないと飛躍する。

 その結果、訴訟記録をインターネット記事に引用することは法の趣旨から妥当ではないと主張し、遺憾の意を表明した。

 これに対し、原告代理人は、以下のように反論した。

 「原告以外のジャーナリストが強い興味を抱き、裁判について自己の意見を堂々と記名記事で発表することは、裁判の公開の原則(憲法第82条)から何ら問題がない。

 報道の要請に対し、訴訟資料を提供することはいくらでもある。むしろ被告側証人の証言が広くジャーナリズムの批判に耐えられないことは再開発の問題を示している、と。

 被告が、準備書面において、市民メディアへの記事掲載を取り上げて、非難したことには驚かされた。被告が、準備書面で取り上げたということは、市民メディアの記事を、チェックしているということを意味する。市民メディアの影響力を示す事象である。

 一方、被告が準備書面で、批判することは理解に苦しむ。準備書面は、口頭弁論での主張の準備のために、自己の主張や相手方に対する反論をまとめた文書である。被告の立場では、原告の請求を棄却または却下するための主張を書かなければならない。

 ところが、被告準備書面での記事批判は、原告の請求を否定するための論拠を書いた訳ではなく、遺憾の意を表明しているに過ぎない。準備書面に書くべき内容ではないことを、準備書面の場を借りて主張することは、目的を逸脱した裁判制度の悪用である。

 加えて被告は、記事が証人の会社名を明らかにしたことを非難するが、宮原証人は被告が申請した唯一の証人である。

 本来ならば、被告内の責任ある立場の人間が立証するのが基本だが、古くから再開発事業に携わり、最も状況を知っている立場であるため証人申請されたという。

 被告本人尋問に代替する位置付けであり、証人の所属、被告との関係に関心が向かうのは当然である。

 また、証人が代表取締役専務になっている株式会社アール・アイ・エー(東京都港区)は、再開発事業で建設される高層ビルの設計も受注している。

 二子玉川東地区第一種市街地再開発事業Ⅲ街区

 【東京】二子玉川東地区再開発がスタート(2/21)

 証人尋問では、証人が再開発コーディネーターとして再開発の企画段階において、主要な役割を果たしたことが明らかになった。

 発注者(再開発組合)や行政(世田谷区)のコンサルタントとして活動した人物が代表取締役となっている企業が、一方で発注者が建てる建物の設計を 受託する。二子玉川東地区再開発を論じる上で、アール・アイ・エーに関心が向かうのは当然の成り行きである。だからこそ、被告は社名の公表を問題視したと も考えられる。

 被告代理人からは、準備書面を陳述するとの発言のみで、特に主張はなされなかった。

 裁判官は別室に退席し、合議を行った結果、原告が提出した証拠のうち、被害の客観的な状況を証明するものを採用し、他を却下すると決定した。却下された主な証拠は、近隣住民らの意見陳述書である。

 これに対し、原告代理人は工事が着工され、周辺住民の怒りが現実化したために、この時期の証拠提出となったもので、証拠として採用しないのは不当と反論した。

 しかし、山田裁判長は現在進行中の問題であるとの原告側主張を踏まえた上で、「最近の事情については採用する」と譲らなかった。

 原告代理人は、個々の証拠としては採用しなくても、工事着工によって被害が激化し、周辺住民の反対が盛り上がっている状況については弁論で述べたとおりであり、これを踏まえた判決を求めた。

 原告が提出した証拠の一部が、被告による「時機に後れた攻撃防御方法」との主張を容れられて却下されたことは、原告住民らに、やり切れない思いを残したものと思われる。却下された証拠の大半は、再開発で受ける被害や再開発に反対する理由を綴った住民の陳述書である。

 これまで被告は、「反対住民は、地域住民の一部である」旨の主張を繰り返してきた。それに対する反論として原告は、多数の住民の陳述書を証拠として提出した。原告としては、被告の問題意識に正面から向き合い、誠実に応じるための証拠提出である。

 ところが被告は、正面から反論しようとせず、民事訴訟法の規定を持ち出して、却下を求めた。民事訴訟法が、時機に後れた攻撃防御方法の却下を定め たことは、時間稼ぎを抑制するために必要なことではある。しかし、今回の証拠提出の経緯を踏まえるならば、被告が証拠却下の申立てをしたことは公正な態度 とは思えない。

 原告ら住民は一方的に説明し、理解を要求するだけで、住民の声には耳を傾けようとしない再開発の進め方に対して、強い憤りを抱いている。それが、 裁判を続ける原動力になった面もあるだろう。ところが再開発組合は、裁判においても住民と正面とは向き合おうとしていないように感じられる。原告らの怒り や失望は、大きいだろう。

 多くの民事訴訟では、代理人が予め提出した準備書面を陳述すると、発言するだけで終わってしまう。法廷ドラマやジョン・グリシャムの小説のような緊迫したやり取りを期待すると失望することになる。

 しかし、この裁判において原告側は意見陳述を多用することで、その主張を明確に説明した。とりわけ一般の住民である原告本人の意見陳述は、実際に 被害を受ける当人の言葉であり、迫力があった。このような形での口頭弁論が増えれば、市民の司法への関心も高まるのではないかと思われる。

 口頭弁論は山田裁判長が結審を宣言し、判決言い渡し期日を発表して終わった。判決は5月12日13時10分から東京地裁611号法廷で言い渡される。

 この裁判は、内容面(再開発への差し止め)でも、手続き面(意見陳述の多様)でもユニークである。判決の内容が注目される。



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