『やんちゃ、刑事。』
武勇伝だけで終わらない含蓄(がんちく)

本書は元警視庁検事で作家の著者が半生を振り返った自叙伝である。けんかに明け暮れた不良少年時代からヨーロッパ留学中のラブロマンス、ユーラシア大陸を横断する放浪旅、一念発起して警察官となり、公安に異動するまでを描く。
著者は自らの警察官の経験を元にした書籍を数多く出版している。本書で記載されたエピソードも類書(『警察裏物語』『スマン! 刑事でごめんなさい。』など)と重なるものが多い。北芝作品はエンターテインメント性が強く、どこまでが真実で、どこからが誇張なのか微妙な話もあるが、別々の書籍でも繰り返し登場するエピソードは作り話と切り捨てられないリアリティーがある。
類書と比べた本署の特徴は放浪旅の経験に紙数を割いていることである。著者は英国留学をしていたが、日本への帰途はバックパッカーとなってユーラシア大陸を横断する。安宿に泊まりながらギリシアやトルコ、イラン、アフガニスタン、インドを旅していく。著者はチャリダーではないが、オーマイニュース時代から連載中の木舟周作記者の『「銀色の轍」〜自転車世界一周40000キロの旅』シリーズと共通する驚きや苦労が盛りだくさんである。
北芝作品の魅力は痛快な武勇伝である。それは警察官になる前のけんかエピソードにも警察官時代の殊勲にも共通する。一方、それを自慢話に感じてしまう向きもあり、好き嫌いが分かれるところである。記者が著者に好感を抱いており、エンターテインメント性を楽しむために本書を手に取った。しかし、本書は武勇伝にとどまらず、含蓄ある言葉を存在する。
イギリス留学の個所では以下の文章を書いている。「当時は、人種差別は今よりもひどかったけれども、やっぱり相手の文化をしっかりと学び、尊敬の気持ちを示せばちゃんと分かり合えた」(74ページ)。
また、警察時代についての個所では警察内部の職種(交番勤務や刑事)で優劣を判断する傾向見る向きに対し、以下のように指摘する。
「仕事の優劣なんてまったくない。例えば警備の任務にしても、交通課の協力がないと交通整理もできないし、信号も変えられない。そのため、お互いの部署間の関係にはとても気を使うし、お互いを尊重しあっている。だから、一つの仕事に対して優越感や劣等感なんて内部的思考は全くない」(177ページ)。
日本社会の悪平等主義に対しては以前から強く批判されている。一方で平等幻想の破壊後に出現した格差社会は「ワーキングプア」「ネットカフェ難民」の語が示すように悲惨な状況である。ここには日本人の相違に対する未熟さが表れている。
日本人は異なる人に対して優劣をつけたがる傾向にある。正社員と契約社員、営業と事務職、刑事と交番勤務と異なる立場の人がいると、どちらが上でどちらが下かというレッテルを貼らなければ気が済まない。相違が格差に直結してしまうために、格差に反対する側の論理も相違を否定する悪平等主義に陥ってしまう。
その点、著者の感覚は相違があることを認めた上で、相違があることを尊重している。ここには悪平等主義も格差意識も存在しない。著者の日本人離れした感覚は閉塞(へいそく)感に苦しむ日本社会において非常に貴重である。
やんちゃ、刑事。
北芝 健
竹書房
2007年11月30日
定価1365円(税込み)
205ページ
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やんちゃ、刑事。(竹書房)










