旅館。
「ぺろちゃん!このチケットあげる!」
「なんだそれ?・・・芸者?」
「そうだよ!わたしはピアノの練習あるから・・・。」
「しかも今日じゃねぇか。行かねーよ。」
「たまにはこういうのもいいんじゃないかと思ってね!」
「・・・。まぁ、そういうもんか。ありがたく貰っておくぜ。」
「2枚あるけれど、誰か行く人はいるの?」
「バカヤロー。俺だってその気になれば相手はいる。」
「ふうん・・・。」
「寂しそうな顔すんな。離れ離れになるわけじゃないんだ。」
「そうだね!ちょっとの間だもんね!」
「お嬢様。そろそろピアノのレッスンがありますぞ。」
「じいや!うん!そろそろ行くよ!」
「・・・。行ってこい。俺はコイツでしばらく暇を潰すさ。」
「じゃあねー!ぺろちゃん!」
「おう。」
少女を見送る。ピンク色をした小さなカエルの人形のようなもの。
これでしばらくは暇となってしまったわけだ。
電話でもするかな、と独り言を呟く。
かける相手は大体決まっていた。
兄である、カエルのケロタンだった。
ケロタンは弟よりも幾分大人である。
もしかしたらこういうのが好きかもしれない。
そう思ったのだ。
「・・・。おう。ケロか。今暇か?」
「丁度坊やが寝たところだ。なんだ?」
「チケットが手に入ったんだ。旅館でいい事があるらしい。」
「お前のいい事は大体ろくなモンじゃねぇ。」
「そういうなって。こっちの小娘がくれたんだ。」
「ふむ・・・。なら、それは信用できるな。」
「俺じゃ信用できないってのか?」
「お前は趣味が乱暴すぎる。」
「なんて言い草だよ・・・。」
「日頃の行いを改めるんだな。」
「くっそー・・・。」
「で、いつだ?」
「今日だ。すぐ来れるか?」
「・・・。何時だ?」
こうして、約束が決まった。
3時だった。
ある旅館でミニコンサートがあるらしい。
約束の時間よりも前に、ケロタンはいた。
「お前、遅いぞ。」
「ケロ相手に時間通りに来るかよ。」
「お前ってやつはろくでもないな。」
「まぁまぁ。そう言うなって。」
「ふん・・・。」
「場所は・・・。俺が前にも行った事がある場所だな。」
「なんでだ?」
「レディーなんとかってやつでさ。それを学びにいったんだ。」
「お前がそんなものを・・・。さぞ滑稽だったろうな。」
「バカにしやがって・・・。言い返せねーけれど。」
「どうだ。どうだ。言ったとおりだろう。そんなことはどうでもいい。行くぞ。案内しろ。」
「案内って言葉はしばらく控えてくれ。イヤなことを思い出す・・・。」
「そんなに辛かったか?レディーファースト。」
「あぁ・・・。かなりな。」
「ふん。」
こうして2匹は歩き出す。
そして目的の旅館にたどり着く。
そこでは見たことも無い格好をした女性が準備に追われていた。
ケロタンは驚く様子もなく、淡々としている。
しかし・・・。ぺろちゃんははっきり言って動揺していた。
なんて奇妙ないでたち。そればかり気にしていた。
そして、会場にたどり着く。
料理が振舞われ、お酒も出た。日本酒で、割と高い味がした。
流石、令嬢に振舞われるチケット。こうでなくてはいけない。
しかし、ぺろちゃんは裏通りを生きてきていたため、高級ななれない雰囲気に気の為に萎縮してしまっていた。
ようやっとほろ酔いになったころ。
三味線の音色が聞こえてきた。
三味線はこうやって弾くのか。
前のようにギターの要領で弾いていた自分に恥ずかしさを覚える。
今度機会があったら教えてもらおう。
そう決めていた。
楽器は一応いろいろなものをこなしているぺろちゃんだったが、三味線と言うジャンルは聞きなれないものだったからだ。
日本舞踊も見せてもらった。
緩やかな舞。風流がそこには在った。
いつも激しいダンスしか見たことの無いぺろちゃん。
これもまたカルチャーショックだった。
そして。目を付けられてしまった。
「あなた、三味線は出来ますか?」
「い、いや・・・。できねぇよ。」
「なら、教えてあげますよ。」
「本当か!なら・・・。けど・・・。」
「折角だ。行ってこい。お前の楽器を弾く様は俺でも見たことないからな。」
「そ。そうか・・・?なら・・・。」
「さぁ、こっちへ来てくださいな。」
「行ってくるぜ。」
綺麗な舞妓さんに手取り足取り教えてもらった。
普段笑うことのないケロタンも、その様に珍しく笑顔になる。
酒の魔力だろうか。
こんな、なんでもないことに普段笑顔を見せない兄が笑顔になった。
ぺろちゃんはちょっぴり嬉しくなった。
調子に乗って日本舞踊のほうも教えてもらう。
綺麗な舞妓さんが相手だからだろうか、それとも酒のせいか。
とにかく、どきどきしていた。
そうしてしばらく時間が経った頃。
ぺろちゃんは日本舞踊も三味線も結構いいところまでいった。
人に見せても恥ずかしくないところまで習得できた。
宴会は、これで終了してしまった。
ぺろちゃんは殆ど手をつけていない料理に後ろ髪を引かれていたが、ケロタンがそれを制する。
帰った後。
「お前、あんなことにも興味があったんだな。」
「うるせぇ。前にちょっとやったからな。それでだ。それで、だけだからな。」
「はいはい。分かってるよ。」
「ちくしょう。」
「にしてもなかなか様になってたな。」
ケロタンがちょっと笑顔になる。
ぺろちゃんもそれに釣られて笑顔になった。
2匹は笑顔のままそれぞれの家路に就いた。
「あ!ぺろちゃん!もしかして行ってきたの?」
「内緒だ。」
「ずるーい!教えてよう!」
「だから、内緒だ。」
「楽しかった?」
「あぁ。楽しかったぜ。」
「それならよかった!わたしも行きたかった・・・。」
今度見せてやるよ、と言う言葉を飲み込んだ。
その代わり、笑顔で応えてやった・・・。
あれはあれでで楽しかった。
今度、アンも誘ってみるか。もう一度行ってみるか。
そんなことを、考えながら少女を見つめていた。
おしまい。
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